Case 02

「ベストナッジ賞」を受賞した東京都八王子市の大腸がん検診受診率向上事業

大腸がんは、日本人の死亡者数がとても多い疾患です。部位別にみたがん死亡者数の統計(2019年)では、男性で3番目、女性で1番目、男女合計で2番目に多いのがこの大腸がんでした。大腸がんの罹患率は年々増加傾向にあり、国としても大きな課題となっています。
大腸がんの早期発見、早期治療には、検便(便潜血検査)を使用した大腸がん検診が有効で、毎年継続して受診してもらう必要があります。

東京都八王子市では、前年度の大腸がん検診受診者に対し、本人からの申し込みがなくとも、年度始めに便検査キットを自動送付しています。しかし、便検査キットを送付した対象者のうち、実際に受診に至る人は7割程度に留まっていました。そこでキャンサースキャンは、便検査キットを送付した人のうち、10月時点で未受診の人を対象に、はがき送付による受診勧奨を実施しました。この取り組みは、人は損失を回避するというプロスペクト理論を用いることで、大腸がん検診の受診を申し込む人が増えるのではないかという仮説のもとに設計しました。

具体的には、はがきのメッセージとしてAとB、2パターンを作成しました。パターンAは、大腸がん検診を受診することで来年度も便検査キットが送られてくるという、利得を強調した利得フレーム・メッセージです。一方、パターンBは今年度検診を受けなければ、便検査キットの自動送付という行政サービスが提供されなくなるという、損失を強調した損失フレーム・メッセージです。

パターンAのメッセージを受け取ったグループとパターンBのメッセージを受け取ったグループの受診率を比較したところ、それぞれ対象者の行動変容に違いが表れる結果となりました。まず、パターンAのグループは送付した1,761名のうち受診者399名(受診率22.7%)。一方、パターンBのグループは送付した1,767名のうち受診者528名(受診率29.9%)でした。パターンBのグループの受診率の方が7.2%向上し、がん検診の受診勧奨にナッジによる効果が認められました。

この東京都八王子市の大腸がん検診受診率向上事業は、環境省および日本版ナッジ・ユニットBESTと行動経済学会との連携によるコンテストにて「ベストナッジ賞」を受賞することができました。私たちはこれからも、予防医療を取り巻く課題に対して、ナッジ理論をはじめとした行動科学の理論・知見をもとに、日本中で実践できる手法を追及し、健康への行動変容を促進していきます。

参考サイト
国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」

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