Mission and Vision

ミッションとビジョン

Mission: 人と社会を健康に

「どんなに自社の洗剤を売っても、世の中ちっとも良くならない」
それは、世界最大の洗剤メーカーP&Gを辞め、留学のために渡米したばかりの私の口癖でした。消費財マーケターとしてのキャリアに物足りなさは感じていたものの、マーケティングのことしかわからない自分が、消費財メーカーの外で一体どんな形で社会に貢献できるのか。そんな答えのない問いに悶々とし続ける日々のなかで、私は人と社会の健康を科学する学問、公衆衛生学との運命的な出会いを果たします。

私と公衆衛生学を引き合わせたのは、ボストンで生活する研究者の集まりで偶然出会った公衆衛生学の研究者、石川善樹でした。彼が語った最先端の予防医療というものは、当時の私にとって衝撃的なものでした。日本の医療・保険制度の特殊性、医療費高騰の背景とその打開策、健診・検診制度の意義、国民一人一人における生活習慣改善の必要性。人と社会の健康に関するあらゆる重要な課題に対して、公衆衛生学がすでに明確な科学的結論を導き出していることに、私はただただ驚くばかりでした。

しかし私は、石川の口からこぼれた「世界の最先端で活躍する研究者たちの悩み」に、何よりも驚きました。

「予防医療の研究者たちが積み上げてきた科学的なエビデンスのおかげで、どんな行動や習慣が人や社会を健康にするのかは随分わかってきている。でも、行動変容の起こし方がわからない。行動変容を起こす要素はわかっても、実際に地域や国の単位で人々の行動変容を起こす方法がわからないんです」

「予防医療の研究者たちが積み上げてきた科学的なエビデンスのおかげで、どんな行動や習慣が人や社会を健康にするのかは随分わかってきている。でも、行動変容の起こし方がわからない。行動変容を起こす要素はわかっても、実際に地域や国の単位で人々の行動変容を起こす方法がわからないんです」

「どうしたら人や社会が健康になるのか」という極めて複雑な問いに、これだけシンプルかつ明確な答えを導き出す優秀な研究者たちが、行動変容の起こし方がわからなくて困っている。私は新鮮な驚きを覚えると同時に、この分野にマーケティングがもたらすことのできる貢献の大きさを瞬間的にイメージすることができました。

自分がプロのマーケターとして全てを捧げてきた行動変容の技術が、世の中の役に立つかもしれない。それどころか、予防医療のエビデンスを道しるべにしながら、さまざまな分野のプロフェッショナルが集まって本気でビジネスをやったら、日本全体を健康にできるような事業が作れるかもしれない。強烈な興奮を覚えた私は、その興奮に突き動かされるままに、自分に公衆衛生学の話を聞かせてくれた研究者、石川と共にキャンサースキャンを立ち上げました。

こうしてボストンの地で生まれたキャンサースキャンという会社は、多様な専門性を持つプロフェッショナルたちが集まり、「人と社会を健康に」をビジネスにするために設立された会社です。そんな私たちが掲げるべきミッションは「人と社会を健康に」以外に考えられませんでした。

Vision: 行動変容をゼロフリクションに

ミッションが、キャンサースキャンが何を目指して事業に取り組んでいるのかを説明するものであるのに対して、ビジョンは私たちが作り上げたいと願っている世界観を表現したものです。

日本には、世界最高水準の幅広い医療サービスに簡単にアクセスできる素晴らしい制度と環境が整っています。しかし、40-74歳の日本人の約半分が健康診断を受けず、また、1,000万人を超える「糖尿病が強く疑われる人々」の約30%が糖尿病の治療を行っていません。このような、「適切な医療サービスが適切なタイミングで十分に活用されていない実態」は、日本の医療費高騰に抑制の目途が立たないことの原因のひとつであるとも考えられ、日本の予防医療が抱える最大の課題となっています。

私たちはこの問題を、日本人の健康リテラシーの問題として捉えるのではなく、行動変容にまつわるフリクション(摩擦)、つまり、「行動を妨げる物理的・精神的な負荷」が高すぎることによって生じている問題だと捉えています。

健康に関する基本的な知識がないことが、正しい行動の妨げになっていることもあると思います。しかし、健康関連の情報がちまたにあふれる今日では、膨大な情報の中から自分の行動変容のきっかけにすべき情報だけを選別し、覚えておくことがとても難しくなっています。

「健診ってどうやって予約すればいいんだっけ?」
「この症状はどんな病院に行けばいいの?」
「このくらいのコレステロール値ならまだ病院にいくほどじゃないって聞いたような…」
忙しい毎日を送っていると、小さな疑問や不確かな情報の積み重なりがフリクションとなり、健康のための行動はどんどん後回しになっていきます。

キャンサースキャンは、科学とデータとテクノロジーの手を借りながら、それぞれの対象に最適化されたコミュニケーションや仕組みをつくり、届けることで、行動変容の妨げとなるフリクションをなくすことに全力を注いでいます。そして、それが人と社会を健康にするための、最も有効な方法のひとつだと信じています。

代表取締役社長/ 博士(医学) 福吉潤